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糖尿病の治療

糖尿病とは

まず、脳細胞が働くためのエネルギー源としては、血糖しか利用できません。なので、グルカゴン、交感神経、副腎皮質ホルモンなどの血糖を上げるホルモンや自律神経は、生命を維持するために欠かせません。
一方で血糖を下げるホルモンは1つで、インスリンしかありません。インスリンは、高血糖を防いでいます。

ここで、糖尿病とは、インスリンの作用不足で慢性の高血糖状態が持続する症候群のことを言います。インスリンの作用不足とは、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの量が少ない場合と、インスリンは分泌されているのに、効き目が鈍くなっている場合の二つの状態のことを指します。
これらの高血糖の状態が持続すると、毛細血管が障害をうけ、毛細血管から栄養をうけている組織が障害を起こしてきます。網膜症や腎症、末梢神経障害がそうです。高血糖によるこれらの合併症が問題なのです。

空腹時の血糖は、70~110mg/dlが正常です。
空腹時血糖126mg/dl以上または随時血糖200mg/dl以上、75gブドウ糖負荷試験の2時間値で200mg/dl以上の場合、糖尿病と診断して良いでしょう。数回検査を繰り返すこともありますが、同時にHbA1cが6.5%を超える場合も糖尿病です。
HbA1cは直近2-3ヶ月の影響をうける平均血糖を表す指標です。

注意したいのは「隠れ糖尿病」です。通常健康診断では、食事を止めて検査します。糖尿病の初期は、食後の血糖が上がってくると言われているので、空腹時だけでみていると診断が遅れる可能性があります。空腹時血糖が110を超えてきたり、メタボがある場合は糖尿病が隠れている可能性もあるので、食後の状態を作り出して検査するブドウ糖負荷試験を行います。75gブドウ糖負荷試験(OGTT)は、75gのブドウ糖を摂取する前と摂取した2時間後で血糖値を測定します。

耐糖能異常に加えて、既に網膜障害がある場合や、口渇、多飲、多尿、体重減少が症状としてあれば、糖尿病と診断されます。少し怖い話をしますが、視界が霞んだり、視力が低下したり、飛蚊症であったりと網膜障害の症状が出てきた時には糖尿病が進行していると考えます。

糖尿病がずっと隠れていて、症状がなく進行し、網膜障害になってから気づく、ということがないように、健康診断をしたり、定期的に検査したりする必要があるのです。

糖尿病には2つのタイプがあります

糖尿病には「インスリン依存型糖尿病(I型糖尿病)」と「インスリン非依存型糖尿病(II型糖尿病)」の2つのタイプがあります

インスリン依存型糖尿病(I型糖尿病)

ウイルス感染や自己免疫により膵臓が破壊されておきる糖尿病です。全体の5%の方が、こちらのタイプの糖尿病です。

インスリン非依存型糖尿病(II型糖尿病)

遺伝要因にくわえて、食べ過ぎ、運動不足、ストレスが加わって発症する糖尿病です。95%の糖尿病がこのタイプです。

糖尿病を放っておくと…

糖尿病を放っておくと、当然、血糖が血液中にたくさん存在し、行き場を無くして溢れてきます。溢れたものは尿から再吸収できなくなるので、尿中にもれてきます。糖は浸透圧の関係で、水を引っ張るので、尿量が増えます。多尿になるので、喉も乾き、お水もたくさん飲むようになります。糖は捨てられていくので、体重が減るようになります。

知らず知らずのうちに糖尿病になっている方は、多尿、口渇、多飲、体重減少の症状が重くなって現れてきます。「普段と違っておかしい」と受診されるケースも少なくありません。

さらにこれを放っておくと、糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群を引き起こします。糖尿病性ケトアシドーシスでは、糖が利用できる正常な代謝ができなくなり、脂肪が使われる代謝が動き始めます。そうするとケトン体が増え、体内が酸性に傾き、高度の脱水状態を招くことで昏睡状態となり意識障害を起こします。高浸透圧高血糖症候群では、糖が血液中に増えることで、高度の脱水状態を引き起こします。この状態はすぐに治療をしないと命を落とす危険性が非常に高いです。

糖尿病の合併症としては、神経障害、網膜症、腎症が代表的です。これらは、毛細血管が高血糖により傷つくことで起きるものたちです。微小血管障害と言われます。

網膜症や腎症は、糖尿病になって5~10年たってから発症しますが、神経障害は比較的初期の段階から発症します。手足の痺れや痛み、感覚鈍麻、お腹の下痢や便秘、立ちくらみ、発汗異常が神経障害に当たります。怖いのは感覚鈍麻です。足底の末梢神経障害が起こると、傷の痛みに気づくことができず、進行した皮膚感染症の状態で気づくことがあります。

気づいた時には壊疽が起き、足を切断せざるをえないこともあるのです。糖尿病で足の切断、とはなかなか想像できないと思いますが、糖尿病を放っておくことで起きることの1つです。ですが、幸いにも神経障害は、初期のうちに血糖をコントロールすることで改善可能です。

網膜症は、前述した通り、視力の低下や飛蚊症を起こします。糖尿病を放っておかずに治療していても、血糖コントロールが悪い人は、網膜症が進行しやすいです。最悪の場合、失明に至ります。神経障害と同じで、たかが糖尿病で血糖が高いだけではないのです。失明の危険性があるということを覚えておきたいところです。

腎症は、初期は症状がありません。健康診断の尿検査で蛋白が陽性(++以上)が出ることで疑われてきます。これは、血液を濾過して尿を作っている部分が高血糖により壊れることで、蛋白が再吸収もされずに漏れ出てしまった結果です。これを放っておくと、血管の中に水分を保っておく力が低下し、水分が血管外に漏れ出し、浮腫むようになります。特に、目が腫れぼったいというような症状が起きやすいです。さらに放っておくと、腎臓の老廃物を排出する機能も低下し、最悪の場合は透析療法が必要になる場合もあります。血液透析の原因疾患第1位が糖尿病性腎症です。

微小血管障害に対し、大血管障害ももちろんあります。これは、糖尿病によって動脈硬化が進行しやすくなることによる、心筋梗塞、脳梗塞のことです。しかも、糖尿病がある人の心筋梗塞は、無痛性で痛みがないこともあり、知らないうちに心筋梗塞を起こしていることがあります。

糖尿病の治療

糖尿病治療では、インスリン自己注射がイメージされますが、その前提として、食事や運動で血糖をコントロールする必要があります。

普通、食事をすると、糖は腸から吸収され、血液へ取り込まれます。そうするとインスリンが分泌され、血液から細胞へ血糖が取り込まれるように作用します。細胞へ取り込まれた糖はエネルギーとして使われます。

食事療法では、腸から吸収される糖を少なくする、つまり、食事から摂取するエネルギーをコントロールする必要があります。1日の目安は、標準体重とその人の活動度によって決まります。

運動療法については、糖尿病の原因であるインスリン抵抗性(インスリンの効き目が鈍くなっている状態)と絡めてお話しします。
インスリンは出ているのに、インスリンが効きづらくなり、血液から細胞へ血糖が取り込まれづらくなることで高血糖が継続している状態が、インスリン抵抗性が高い状態です。
このインスリン抵抗性を改善するために、運動療法があります。運動の効果には、運動をすると、インスリン抵抗性がすぐに改善してくる急性効果と、それを繰り返すことによる慢性効果があります。

急性効果では、運動することによって、骨格筋での糖の取り込みと消費の亢進が起こり、また、細胞内の代謝を司るミトコンドリアでの脂肪燃焼の促進が起こります。運動を継続すると、骨格筋の中性脂肪量が低下し、糖の取り込みを促進する作用がさらに亢進します。
また、ミトコンドリア数が増加し、脂肪燃焼が亢進することで、肝臓での中性脂肪蓄積が抑制されます。中性脂肪量が減少することで、脂肪細胞が小さくなると、インスリン抵抗性を高めるとされている代謝経路が、インスリン抵抗性が改善されるように変化していきます。運動による糖の取り込み・脂肪燃焼の促進、エネルギーの消費だけでなく、中性脂肪蓄積の抑制と、代謝経路の変化によってもインスリン抵抗性の改善が期待できるということです。

なので、要は、継続した運動が大事ということです。一度運動すると、インスリン抵抗性の改善効果は3日で低下し、1週間で消失してしまうので、インスリン抵抗性の長期的な進行防止には、少なくとも週3回以上の運動習慣が必要です。

半年程は、食事と運動で治療し、血糖値が改善するかどうかをみていきます。最終的な目標は、HbA1cを7%以下にして、合併症の進行を予防することです。

それがうまくいかなかった場合、お薬を検討します。お薬と言っても、糖尿病の病態によって処方する必要があります。まずは、経口血糖降下薬と言われるお薬です。インスリン抵抗性改善系、インスリン分泌系促進系、糖吸収・排泄調節系という種類があります。薬効のタイミングも異なるので、複数のお薬を組み合わせて使用します。第一選択薬は、肝臓での糖新生の抑制をするメトホルミンです。それに併用していくというイメージです。

そうは言っても、3剤併用しても改善しない、食事も運動も頑張っている、という場合は、インスリンの自己注射を導入します。インスリン療法の目的は、健常者のインスリン分泌状態を再現することです。基礎インスリンという1日1回の補充と、食前に補充する追加インスリンの2種類があります。個々のライフスタイルに沿って、回数や効果を考慮し、注射パターンを決定していきます。

Ⅰ型糖尿病と言われるような、インスリンの分泌が足りない場合は、食事・運動というより、体外からインスリンを補充する治療が必要です。

当院での治療について

当院では、運動療法、食事療法、内服薬やインスリンの注射による薬物療法を行っています。

膵臓の移植が必要な場合もございますので、その場合は、信頼のおける大規模な医療機関と連携して治療を行います。

生活習慣の改善について

食事療法ではエネルギーコントロールするために、まずは生活の活動度と合わせて適正エネルギーを計算します。

標準体重(kg)(=身長(m)×身長(m)×22)に、座位等の弱い活動は20~25kcal、デスクワーク等は25~30kcal、立ち仕事等は30~35kcal、力仕事等の重い活動は35kcal以上を目安としてかけます。

例えば、デスクワークが多い167cmのサラリーマンの人は、61.3kgが標準体重なので、61.3kg×30=1840kcalが適正エネルギーです。
肥満の場合は、活動量を一段階下げて、61.3kg×25=1532kcalが適正エネルギーです。

このようにエネルギー計算を行い、どういう食事にしていくか、普段の食事から何を変えられそうか考えていきます。1人で考えると難しいので、医師や栄養士と相談しましょう。

ここで、糖尿病治療の5つの目標は、まず禁煙、次に血圧管理、それからメトホルミン治療、脂質管理、血糖管理です。血糖管理だけをしても、死亡率改善には至りません。これはつまり、血糖だけを下げればいいという訳ではないということです。禁煙、血圧管理、メトホルミン治療、脂質管理を合わせて行うことが極めて重要で、この管理が、死亡率を下げると研究で示されています。

特に、喫煙習慣を放置することはタブーです。なぜなら、喫煙は、瞬間的にインスリン抵抗性を高め、血糖値を上昇させるからです。喫煙で糖尿病の発症が促進されることが研究で示されています。さらに、喫煙は、糖尿病の微小血管障害や大血管障害のリスク因子でもあるので、糖尿病と診断されたら、禁煙治療もついてくると考えましょう。他の治療をしても、禁煙しなければ、甲斐がないのです。現在は、保険適応で比較的簡単に止めることができますので、積極的に検討しましょう。

高インスリン血症で末梢血管抵抗が増大し、高血圧の原因の一つとなることもあります。なので、糖尿病患者の高血圧の頻度は、非糖尿病患者の約2倍です。高血圧を管理することで、大血管障害による死亡を抑制するとされているので、糖尿病と診断されたら、血圧管理も重要になってきます。当院でも、どちらも治療している人は多いです。

また、糖尿病では、非糖尿病患者に比べ、冠動脈疾患のリスクが2~6倍にあると報告されています。糖尿病や脂質異常があるなら、動脈硬化を進行させないよう、積極的にスタチン治療も行っていく必要があるのです。

糖尿病は、ただ糖尿病のみを治療する、血糖を下げる、というより、糖尿病や高血圧、脂質異常を招くような生活習慣を改善して、糖尿病によって起こる合併症で生活が奪われないように薬も使って予防することが目標です。

生活習慣は根が深いです。諦める人も多いです。かつて大病院にいたとき、「高血糖はだめだ!」と、心筋梗塞を予防したいがあまり、否定的に伝えてしまったことがあります。でもそれでは、患者さんのモチベーションにはつながらないのです。糖尿病は生活とか、こだわりとか、考えとかに深く根付いているからこそ、その人のモチベーションをいかに保つかが大事です。その習慣が悪い、だめだ、血糖が高いのが悪い、ということは重要ではありません。じゃあどうしたらよくなるのか、小さくてもできたことをいかに積み上げるか、ゴールを共有して、どういう道のりで達成するか一緒に考えることが、最善の治療だと思っています。

文責:國廣 崇

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