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大動脈解離について

大動脈解離とは

大動脈には、心臓から出て上に向かう上行大動脈、上に行ってからカーブして下に向き始める大動脈弓、下に向かう下行大動脈の3つがあります。上行大動脈は心臓へ、大動脈弓は脳へ、下行大動脈は脊髄、腸、腎臓等へと、大動脈は、生命の維持には欠かせない器官へと血液を送っている、いわば体の中でも要の血管です。

動脈の血管壁は、外膜、中膜、内膜の3層からできています。そのうちの中膜になんらかの理由で亀裂が入ることにより、その亀裂から血液が流れ込み、再び動脈に戻る、という血液の流れになります。つまり、本来の血液の流れとは別の流れができるということです。このように血管壁が裂けている状態を、大動脈解離といいます。

もし、中膜が裂けてから中に戻るのではなく、動脈の外側が裂けて血液が外にもれると、大動脈破裂となり、病院には辿り着けず命を落としてしまうこともあります。亀裂が最終的に起きる方向によって、結果が大変違ってくるのです。

このように破裂してしまうと即死につながることもあり、実際に大動脈解離を発症すると病院到着前の死亡率は6割、たどり着いても、24時間以内に適切な治療が施されなければ9割が死亡するという怖い病気です。

一言で大動脈解離といっても、極めて予後が悪いものと、予後が良好なものにわかれます。大動脈解離にはスタンフォード分類という分類があり、上行大動脈に解離が起きればスタンフォードA、上行大動脈以外に解離が起きればスタンフォードBといいます。

スタンフォードAはほとんどが緊急手術を要し、予後が不良です。これは、大動脈弁に解離が及ぶことで急性の大動脈閉鎖不全を起こしたり、心臓の外にある膜と心臓の間に血液が急速に漏れ出ることにより心臓が圧迫され、心タンポナーデを起こしたりと、致命的な合併症が多いことが原因です。

スタンフォードBは、Aに比べたら致命的ではありませんが、解離がどこまで起きていて、その解離腔(偽腔)が本来の血流(真腔)をどれだけ邪魔をして、実際に血流障害を起こしているか、というところが非常に重要です。もし血流障害を起こしていれば、その先にある臓器に障害が起きてしまいます。例えば、腎動脈に血流が行かないと腎不全、脊髄にいく血管が閉塞すると下肢麻痺が起きるのです。こうなってくると、スタンフォードBでも緊急手術が必要です。

大動脈解離は、起こすと分類にかかわらず、命に関わる非常に危険な病気です。スタンフォードBなら少しは助かる見込みがある、というくらいです。何よりも、起こさないことが一番なのです。

大動脈解離の原因と症状

大動脈解離が引き起こされる原因には、動脈硬化により、内膜に傷がつきやすくなるという血管の器質的な問題があります。また、心臓の運動や高血圧による血管壁に対する力学的な影響と、マルファン症候群などの遺伝的な要因に分けられます。

特に高血圧を放置することで大動脈解離になる人がとても多いです。心臓は拍動によって上下運動を繰り返していますが、心臓とつながっている大動脈弓は固定されています。この状態は血管壁にストレスが加わっていることであり、特に中膜に負荷がかかっている状態です。高血圧を放っておくと、この血管壁に加わるストレスが更に大きくなり、大動脈解離を起こしやすくなるのです。

大動脈解離の症状は、突然起きる胸部や背中の激痛です。前兆はありません。なんの前触れもなく激痛が起きたら、迷わず救急車を呼んで下さい。解離が進むにつれて痛みが移動する場合もあり、胸背部のみならず、腹部へと痛みが広がることもあります。

大動脈解離そのものによる激痛以外に、血流障害による症状を伴うことがあります。脳にいく血管が偽腔により血流障害を起こせば、失神を起こすこともあります。腸管への血流が障害されれば、イレウスを起こして腹痛や腰痛を起こし、脊髄への血流が障害されれば、両側の運動麻痺が起こります。また腎臓への血流が障害されれば、尿量が少なくなり腎不全を起こしてしまい、そして冠動脈への血流が偽腔により障害されれば心筋梗塞を起こすこともあります。

スタンフォードA型の大動脈解離で大動脈弁に解離が及べば、急性大動脈弁閉鎖不全による急性心不全で急激な呼吸困難を起こしてしまうこともあり、心タンポナーデを起こせばショック状態となってしまうこともあるのです。

大動脈は全身の血流を保っているからこそ、全身に対して症状が起こってくるのです。

大動脈解離の治療

治療法は、スタンフォードAとBで異なります。

上行大動脈に解離があるスタンフォードA型では、命に関わる致命的な合併症を生じやすいため、緊急手術となります。解離を起こしている範囲に応じて、人工血管を用いた置換術を行います。弁にも解離が及んでいれば、弁置換術となり、冠動脈まで解離が進んでいれば、バイパス手術を行います。

手術になるまでの数時間で大事なのは、血圧のコントロールです。通常の血圧ではなく、動脈にカテーテルを入れて、観血的に精密に血圧を計測する必要があります。内服では十分な降圧が得られないので、静脈内に直接、降圧剤を投与して血圧を管理します。また、激痛を感じることによっても血圧が上がるので、痛みを感じにくくする疼痛コントロールも重要です。通常の疼痛薬は効果がなく、塩酸モルヒネを少量ずつ使用しながら疼痛をコントロールします。

スタンフォードB型では、A型と比べて合併症も少ないため、緊急手術ではなく、保存的に血圧と疼痛のコントロールを行います。血圧の目標値は、収縮期100~120mmHgです。心臓の上下運動に関わってくる収縮力を抑えるために、βブロッカーというお薬を併用した降圧療法となります。また偽腔によって、脊髄・腎臓・腸管への血流障害を起こしている場合は、人工血管の置換術を行うこともあります。

高齢者など、人工血管の置換のために開胸開腹を行う広範囲な手術に耐えられないと判断した場合には手術そのもののリスクもありますので、大動脈を内側から押し広げるようにステントグラフトと呼ばれる管をはめ込む手術を選択することもあります。

大動脈解離を予防するために

大動脈解離は前兆もなく突然発症し、しかも致命的なものなので、予防することが極めて重要です。まずは高血圧の放置で起きることが多いので、症状がないからといって放置せずに、高血圧と言われたら受診することが大切です。

大動脈解離を起こしやすくする要因に、動脈硬化があります。動脈硬化は血管全体に連続的に起こる、というより、非連続的に起こります。つまり、動脈硬化が起きている部分と起きない部分で血管の柔らかさが異なってきます。このように柔らかい部分と硬い部分が混在していると、その差によって解離が起きやすくなるのです。そのため、動脈硬化を予防・進行させない生活と治療が必要です。

大動脈解離を一度起こしたら、手術をする・しないにかかわらず、血圧のコントロールが必要となります。血圧を良好にコントロールすることで、大動脈解離の再発を1/3に減らすことができると報告されています。
解離を起こした部分を保存した治療の場合は、解離を起こした血管は中膜が薄くなっているので脆弱になっている状態です。そのため、血圧からうける負荷を減らすことが再解離や血管径の拡大を抑えることにつながります。十分な降圧を得られる降圧薬を、内服で継続していくことが非常に大切です。

またCTやMRIを用いて、大動脈径が拡大していないかを定期的に見ていく必要があります。CTのフォローアップ目安は発症後3ヶ月、6ヶ月です。変化がなければ、その後は半年ごとの検査を2年間継続していきます。

なお重量挙げなどの無酸素トレーニングは胸腔内圧を上昇させ、血圧が上がる状態を作るため、おすすめしません。

また喫煙、暴飲暴食、過労、睡眠不足、精神的ストレス等は血行動態の変化につながりますので、避けるようにすることが大切です。この血行動態の変化は再解離を招いてしまうので、予防するために、暴飲暴食、過労、睡眠不足、ストレスがあると思われる場合はぜひ相談していただきたいと思います。一人ひとりにとって、実際にできる生活習慣改善を一緒に考えていきましょう。

 
文責:國廣 崇
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