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心不全の治療

心不全とは

心臓は、全身の筋肉や臓器に血液を送るポンプの役割をしています。全身を回ってきた血液を肺へ送り、酸素と二酸化炭素のガス交換を行うのです。

様々な原因でそのポンプの機能が働かなくなっている状態を心不全といいます。
つまり、心不全とは、病名ではなく「状態」のことです。原因として、様々な心臓の病気があって引き起こされるものなのです。

心不全には、急に発症する急性心不全と、徐々に進行して発症する慢性心不全があります。それぞれ原因は異なっていて、それにより治療法も異なっています。

急性心不全は、心筋梗塞などの病気が急に発症したときに起きるケースが多いです。
症状としては、急な激しい呼吸困難として出てくることが多いです。ポンプの力が「急に」弱まることで、血圧が維持できなくなり、低血圧が一気に進み、ショック状態となります。

慢性心不全は徐々に進行します。心臓のポンプ機能が徐々に低下していくので、その代わりにポンプの力を補おうとして、代償機構が働き、心臓が大きくなったり、心拍数が増えたりします。ポンプの力を維持するような形で、症状が出ないように体が順応しているのです。なので、初めはあまり症状がなく、気づかないことがほとんどです。
代償機構が破綻し、呼吸困難やむくみが出てきたときに気づきます。

急性心不全も慢性心不全も、心臓弁や心臓のポンプの機能が弱まったことが原因で、心臓に血液が鬱滞している状態は同じです。急激に進行するか、体が順応しながらどんどん進んでいくかという経過が異なります。急性心不全は、代償機構が働く間も無く急激に進行するので、ショック状態に至ってしまうというのがほとんどです。 

心不全の原因と症状

心不全の原因

虚血性心疾患、高血圧性心疾患、弁膜症。これらが心不全を引き起こす3大原因です。
他にも心筋症、心筋炎、先天性心疾患、また稀ですが不整脈、肺疾患、薬剤などが、心不全を起こす原因として挙げられます。

3大原因の中で一番多いのは虚血性心疾患
虚血性心疾患の中で言うと、心不全を起こすのは心筋梗塞と虚血性心筋症です。狭心症では血管の狭窄は起きますが、心臓は動いているため、心不全にまではなりません。痛い、などの症状のみです。
心筋梗塞になると全てが心不全になるわけではないのですが、梗塞の範囲が大きくなればなるほど、心臓の筋肉が壊死する範囲も大きくなるので、心臓のポンプ機能は働かなくなり、急激に心不全を起こします。

虚血性心筋症というのは、高度狭窄が冠動脈の多肢に起き、心臓の筋肉に十分な栄養が送られないことで、壊死こそ起こしませんが、心臓がポンプ機能の運動を減らして冬眠状態になっている状態です。
壊死はしていなくて動いていないわけではないけど、生き延びるためにほとんど心臓が動かないギリギリの状態なのです。生き延びようとする状態といえど、ポンプ機能が低下しているので、これも心不全を起こしてしまいます。

3大原因のひとつ、高血圧性心疾患

これも原因として非常に多いのです。
高血圧を放っておいてなる人が多いです。高血圧を放っておくと、もちろん心臓に負荷がかかります。心臓に負荷がかかるということは、心臓の筋肉が肥大してマッチョになるイメージです。マッチョというと、「悪くないんじゃないかなあ」と思う人もいるかもしれませんが、心臓は違います。
心臓の筋肉は肥大化したら繊維化していくので、心臓が硬くなっていくのです。硬くなると、拡張と収縮を繰り返してポンプ機能を保っている心臓は、拡張しにくくなります。血圧に対して十分に心臓が拡張できないので、そうなると心臓の中の圧が高まり、徐々に肺に水が染み出して呼吸困難を起こして心不全状態となります。

3大原因のひとつ、弁膜症

心臓の弁には、左心室と大動脈の間にある大動脈弁、左心房と左心室の間にある僧帽弁、肺動脈と右心室の間にある肺動脈弁、右心房と右心室の間にある三尖弁があります。

弁は、血液が逆流しないように、「しなやかに」開閉しています。
弁膜症で心不全に移行することが多いのは、左室に関係してくる大動脈弁と僧帽弁です。それらの弁が狭窄を起こしたり、閉鎖不全といってしっかり閉じれなくなった状態が弁膜症です。

大動脈弁狭窄症

動脈硬化と加齢によって大動脈弁が硬くなって開きにくくなります。そうするとその分、血液を送り出すために、心臓がより圧をかけて収縮する必要があります。
その結果、心臓に負荷がかかり、筋肉が肥大してくるので、高血圧性心疾患と同じような経過で心不全を起こします。

大動脈弁閉鎖不全

心臓が収縮期に大動脈へ押し出した血液が、弁がしっかりと閉じないことで、拡張期に心臓へ戻ってきてしまいます。
その心臓へ戻ってきてしまった血液と、肺・左心房から送られてくる次の血液が合わさって、心臓にため込んでしまう血液量が増えます。そうすると、代償機構が働くので、心臓は拡大することで対処しようとします。しかし拡大するには限界があるので、これ以上拡大できないところまで閉鎖不全が進むと、心臓の中に圧がかかり、心不全を起こしていきます。

僧帽弁閉鎖不全

本来は乳頭筋が左室側にひっぱっているおかげでしっかり閉じている僧帽弁が、それらを繋ぐタコ糸のような腱索が変性し断裂してしまうことで、しっかり閉じることができなくなる病態です。
しっかり閉じずに本来左心室側にあるべき僧帽弁が、収縮期に左心房に翻ってしまうのです。そうなると血液は、収縮期に左心房に逆流してしまいます。逆流すると、大動脈弁閉鎖不全で心不全を起こすのと似たように、左心房の拡大と心臓の中の圧の上昇を経て心不全を起こしてしまいます。

心不全の症状

心不全の症状は、左心不全か右心不全によって異なります。

左心不全

心臓の左心系の異常で起こる心不全です。
左心は、肺から肺静脈を通ってきた血液を、全身に送る役割をしています。ここのポンプが機能しなくなったり、弁に異常があったりすると、左心の中の圧が上がり、その手前の肺静脈の圧が上がります。
肺静脈の圧が上がると、ガス交換をしている肺の組織に水が染み出してきてきます。重症化すると肺胞内に水が染み出してきます。
本来ガス交換をするはずの肺胞が水びたしのような状態になるので、呼吸困難を起こします。喘息のようになることもあります。肺胞が水びたしになっているので、咳や、ピンク色と表現されるような泡沫痰が出るのも左心不全に特徴的です。
夜間の起坐呼吸というような、頭を高くしないと苦しくて寝られない状態や、夜間の頻尿も左心不全の症状にあります。

右心不全

右心系の異常で起こる心不全です。
右心系は、全身から返ってくる血液を肺に送り出す役割です。なので、右心不全になると、心臓に血液が戻りにくくなります。そうすると全身の静脈圧が上がり、血液が心臓に戻れず滞っているようになるので、特に下肢が浮腫むようになります。

最初は、「最近、靴が履きにくいなあ」というように気づかれる方が多いです。足のスネを押してみて、指の跡がすぐに消えないぐらいの浮腫で、朝になっても浮腫が消えない、そんな時はお早めに相談していただくのが良いでしょう。
また、お腹に水がたまったり、肝臓が腫大することで食欲が低下することもしばしばみられます。

心不全の治療

前述した通り、心不全は、様々な病気が原因で血液が鬱滞している状態です。
もちろん、その原因となっている心筋梗塞などの虚血性心疾患や、高血圧、弁膜症を治療することもそうですが、貧血や感染症、水分や塩分の過剰摂取などの心不全を引き起こす誘因の改善も必要になります。

心不全の治療は急性と慢性で異なってきます。

急性心不全の治療は、心筋梗塞が原因であれば、心筋梗塞の治療を優先させます。過剰な水分がみられる場合は、利尿剤を使用し、過剰な水分を体外に排出させます。その後、食事等での水分や塩分制限を行います。

適切な塩分量は1日あたり7g以下と言われています。日本人は食文化から、塩分を1日あたり14g以上摂取している人が多いとされていますので、塩分制限が重要になってきます。

なぜ塩分制限が大事なのでしょうか。
塩分制限をせずに水分制限をしようとすることは困難です。なぜならば、塩分をとると喉が乾きます。そうすると、水分を知らぬ間にとることになります。
そうすると心不全はいつまでたっても治りません。病院だけではなく、日常生活でも制限することが心不全治療の肝です。

慢性心不全は、原疾患ももちろん、なんらかの誘因が契機となって発症することが多いです。
普段飲んでる薬を飲まなかったり、水分を取りすぎてしまったり、感染症による発熱で心臓に負荷がかかることで慢性心不全が急性増悪すると、入院しなければならない場合もあります。 原疾患ももちろん、そういった誘因も紐解いて改善していく必要があります。

急性心不全でも、慢性心不全でも、水分・塩分制限が重要です。こちらも、肺鬱血や浮腫を改善させるための利尿剤が必要です。

心臓の負担を軽減する目的で、ACE阻害薬やARBを使用します。血管を収縮させるアンジオテンシンⅡというホルモンは心不全になると生成が亢進され、さらに心不全が悪化するというスパイラルに入ってしまいます。このスパイラルを断ち切るためにこれらの薬を使用し、ホルモンの働きを抑制し、心不全の発症を制御します。

もう一つ大事な治療薬はβ遮断薬です。心不全がおきると交感神経が賦活化されます。賦活化されると、頻脈になったり、血圧上昇をきたします。これによって心不全は悪化のスパイラルに陥ります。
この賦活化したサイクルを抑えるためにβ遮断薬を使用します。ARB阻害薬、ARB、β遮断薬は予後を改善すると証明されており、長期的に内服することをおすすめします。

心不全を予防するために

心不全の予防は、原疾患に対する治療と誘因の除去、これにつきます。
そして塩分制限です
。適度な塩分制限と適度な運動をベースとして治療していきます。

心不全を予防するために一番大事な治療は高血圧の治療です。高血圧性の心不全は2番目に多いため、高血圧そのものが心不全を起こす危険性が高いということです。
そして、虚血性心疾患による心不全も依然として多く、その予後も不良です。虚血性心疾患を予防するには、動脈硬化の予防が必要であり、虚血性心疾患を引き起こす危険因子の喫煙、高血圧高脂血症、糖尿病のコントロールが必要です。

再発予防のために、定期的な検査も必要です。重症度にもよりますが、まずは心臓の聴診、心電図、レントゲン、採血を3ヶ月に1度のペースで行うのが好ましいです。
心電図では原疾患の病変による変化がないか、新たな不整脈の出現がないかどうか、レントゲンでは心臓のCTR(心拡大)、肺鬱血や胸水がないかどうかをみて、悪化の前兆がないかどうかをみていきます。

さらに、原疾患の進行がないかどうかを調べるために少なくとも1年に1回は心臓エコー検査を行います。心臓エコー検査では、左室収縮力(LVEF)、左室径、左房径、下大静脈径をみていきます。

心不全はしっかりと治療を行わなければ急に悪くなり、生命に危険を及ぼす可能性のある状態です。心不全が疑われる場合は、必ずお早めに専門医にまで相談するようにしましょう。

 
文責:國廣 崇

90b647fbcfe18cbfacb4c932dbe949aeユアクリニックお茶の水 院長
内科/循環器内科医

國廣 崇 Takamu Kunihiro


「安心」と「信頼」を柱として、病気を治療するだけでなく、患者さんの思いを大切にしながら、健康を紡ぐ医療を行います。

多くの患者さんからいただく「先生と話すと元気になる」という言葉を励みに、皆さんの健康創りに貢献してまいります。 

 

 

 

【診療科目】
内科、循環器内科

【略歴】

  • 1993年 昭和大学医学部 卒業
  • 1998年 東京都済生会中央病院 循環器科医員
  • 2002年 Mayo Clinic Vascular Lab. 動脈硬化研究
  • 2003年 東京都済生会中央病院 復職
  • 2008年 めぐみ在宅クリニック勤務 終末期医療、緩和医療
  • 2009年 鶴巻温泉病院勤務 緩和医療
  • 2010年 稲城市立病院勤務 救命救急科部長
  • 2012年 くにひろクリニック勤務
  • 2015年 ユアクリニックお茶の水
  • 2019年 ユアクリニックお茶の水 院長就任

【所属学会・資格】

  • 日本内科学会認定内科認定医
  • 日本内科学会認定総合内科専門医
  • 日本循環器学会認定循環器専門医
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